犬も音楽は好き!リラックスできるテーマ曲を見つけて。

獣医師の平松育子先生(元・ふくふく動物病院院長)によると、犬や猫、鳥などの動物は音に反応することがあるとされています。

平松先生は、動物たちの心身の健康を考え、動物たちがリラックスできる音楽を作曲し、動物たちの治療に取り入れています。

では愛犬と飼い主にとって、どのように「オトとりっぷ」を使うといいのでしょうか。犬と音楽のつながりや活用方法を伺いました。

犬にも好きな音楽がある

──犬は「音楽」を認識するのでしょうか?

人間が判断するところではありますが、犬も認識していると思います。好き嫌いもあると思いますよ。私と暮らしている犬猫たちを見てもそう感じます。

──平松先生はどんなときに、犬も音楽が好きだと気づいたんですか?

気づいたきっかけは、うちにいたダックスフントと娘のピアニカ(鍵盤ハーモニカ)です。娘はいつもダックスの前に座って練習をしていたんですが、ピアニカに合わせてダックスも「ワオーン、ワオーン」と鳴くんですよ。そしてピアニカをやめると止まる。リズムは合っていないんだけど一緒に歌っているようで、ピアニカの音は好きだとわかりました。

逆にどなり声などが聞こえると、悲鳴のような声で「ワンワン(やめてよ、やめてよ)」と鳴きます。犬は聞こえてくる音やシチュエーションによって、自分なりに感情表現をするんです。

牧場には牛の乳の出を良くするためにモーツァルトをかける所がありますし、動物にとっていい気分になる音、波長、リズムがあるんだろうと思います。

──「レゲエとソフトロックを聞かせた犬にポジティブな変化があった」という海外の論文があるのですが、日本に住む犬たちにも同じことはいえるのでしょうか?

日本で実験したら違う結果になるのではないでしょうか。犬たちはいつも飼い主さんが聞いてる音を聞いてるので、音楽ジャンルの好みはお国ならではだと思います。

──そうすると、犬は慣れ親しんだ音を好む傾向があるのでしょうか?

犬の社会科期(生後1カ月~3カ月頃)に聞かなかった音や曲は、最初は居心地の悪さや違和感があったり、ノリノリになれないかもしれませんね。人間が子どもの頃に聞いていた曲調に親しみを感じるように、動物にも同じことがいえるのではないでしょうか。

動物病院のホテルでは犬も猫も鳥も預かっていますが、どの子もみんな独特ですよ。電話に反応する子もいれば、まったく反応せず寝ている子もいる。おやつの袋のカサカサ音も同様。音が楽しい体験と結びついているか、恐怖体験と結びついているかで変わるんです。

──ふくふく動物病院でも音楽を流していますか?

ずっと流してます。オルゴール音やクラシック、ギター、鳥のさえずりと川のせせらぎ音などいろいろ試しましたが、結果、自分が好きだからというのもあるけれど、軽めのジャズが一番いいですね。最もだめだったのは、鳥のさえずりと川のせせらぎ音。特に猫が「どこにいる?」ってそわそわしちゃうんです(笑)。

愛犬の好きな音楽の見つけ方

──犬の年齢によって好きな音が変わることはありますか?

歳をとって聴力が低下しても、犬は音の振動を感じることができます。犬の耳は、鼓膜が震えて聴神経が大脳へ行き「音」として判断するので、シニアになると「曲」として聞こえているか、「音」や「振動」として聞こえているかの判断は難しいところですね。でも甲高い声は徐々にいやがる傾向があり、低めの落ち着いた声で話すと聞こえることがあります。

──では犬に音楽を聞かせるとき、どのくらいの音量にするのがいいでしょうか?

意外と小さめでいいかもしれません。犬の耳は人間よりも聞こえる音の周波数が広いので(犬は8000ヘルツ、人間は4000ヘルツ/もっとも敏感な周波数)、人より犬の方が高音が聞こえて、大きな音はいやがります。

うちにいるキャバリアは小さめの音量のBGMくらいで大丈夫です。リラックスして寝てしまいます。2つ、3つお気に入りの曲があるんですが、それ以外の音楽では寝ないんですよ。

──先生のうちの愛犬も音楽を聞くんですね。

はい。その子は半身不随になって我が家に来たんです。当時、環境変化に分離不安もある、さらに思うように動けないという状況で全然寝られなかったんです。でも私は診察もあるので、留守番中の子守唄になってくれたらと思い、ペット向けのリラックス音楽を流してみたんです。しばらくしたら地響きが聞こえて……。あの子のいびきでした(笑)。

それからは「この子のテーマ曲にしよう!」と。お留守番のときや、朝までかけっぱなしにすることもあります。いま5歳ですが、元気いっぱいにゆるい生活を送っています。

──飼い主さんが愛犬の音楽の好みを探るとき、愛犬のどんな反応をみればいいでしょうか?

犬は「何か聞こえてくるな」と、耳をぴこぴこ動かしますよね。その様子を見て、その後、居心地のいい曲だったらリラックスするので寝ちゃうかも。気分が高揚するような曲だったら、鼻を上に向けて楽しそうにするので、飼い主さんが気づいてあげられると思います。

嫌いな音の場合はノーリアクションかワンワン鳴くか。どちらかというとノーリアクションのほうが多いかもしれません。

音楽は犬の心のケアに使える可能性がある

──犬も音楽でリラックスするということですが、「オトとりっぷ」の音楽は犬の心のケアにも使えそうでしょうか?

音楽がすべての問題を解決できるわけではないですが、自律神経の乱れから発症する問題に対して、神経をなだめることはできるかもしれません。また、飼い主さんの声のトーンや波長、雰囲気によっても、リラックスできる効果があるので、そこに曲もあれば相乗効果で改善される可能性はあります。

留守番中に玄関のチャイムや車の音など突然の音がすることは、犬にとって恐怖でしかないと思うんです。さらに音の理由がわからないとなると不安を助長することに。それをカバーできるBGMがあり、さらにそれがいつも飼い主さんといるときの音楽であれば、だいぶ気持ちは楽ちんになるかなと思いますよ。

──留守番中のケアができると、飼い主さんの安心にもつながりますね。

多くの飼い主さんが、犬が1匹でお留守番できるかどうか心配していますが、犬が分離不安になるのは、飼い主さんの依存性の問題もあるため、そういう場合は日頃から1時間ずつでも離れる練習をすることが大切です。その際に、「オトとりっぷ」を使って環境を整えることいいのではないでしょうか。

──動物病院へ行くのをいやがる犬は多いと思います。そんな時の「オトとりっぷ」の活用方法はどうでしょうか?

動物病院へ行くときだけ音楽を使うのはだめで、楽しいところへ行くときやお家でも使うのがおすすめです。犬は人間の3歳くらいの知能があり、楽しいキーワードを覚えていくので。でも飼い主さんの雰囲気で察してしまったり、道順で気づいてしまう子もいるので難しいところですよね。

とはいえ、ペットさんの精神状態は、麻酔や手術中の安定感にもかかわってくるくらい重要なんです。緊張しすぎると自律神経がたかぶってしまい、麻酔の効きが悪くなってしまう。手術前は飼い主さんも不安になってしまいますが、できるだけペットさんにはいつも通りの声や音楽で落ち着かせてあげると、落ち着く効果はあるかもしれません。

私もペットさんたちにたくさん話しかけますし、看護師さんもたくさん話しかける人ほど動物から好かれますね。コミュニケーションは大切です。

愛犬のテーマ曲を見つけてみよう

──犬と飼い主のQOL向上のために「オトとりっぷ」をどう取り入れるのがいいでしょうか?

「犬のためだけに使う」というより、「みんなのBGM」だと思って気軽に使えるといいですね。「この子の好きな曲はどれなの?」と真剣になりすぎず、犬も自分も好き、お互いに楽しくてリラックスできる曲を探してもらえるといいと思います。

ペットさんたちを診れば飼い主さんの調子もわかるくらい、彼らは飼い主さんの機嫌や精神状態を察知するんですよ。なので飼い主さんも愛犬と一緒に楽しみをつくってみてください。ペットさんと飼い主さんはきっと共通点があるから家族なんだと思うので。

できれば犬の社会化期から使ってほしいところですが、おうちにお迎えすると同時に、その子の「テーマ曲」を見つけてあげるといいですね。

●プロフィール

平松育子(ひらまつ・いくこ)

獣医師。山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、2006年~2023年3月まで山口市内で「ふくふく動物病院」を開業し院長を務める。以降、京都府の動物病院にて獣医師として勤務。

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